本文へスキップ

過去の記事back number


第34回 緑内障 2011.04.18
みなさんこんにちは。毎度のことですが、この最初の出だしは書くことがなくて困ってしまいます。今回ももう1時間くらい悩んだのですが結局何も浮かびませんでした。毎日ブログを書いている人はすごいなと思います。というわけで特に内容のない出だしですいません。

さて、今回は眼科疾患の緑内障です。この病気は知名度は割りと高いと思いますが、白内障などに比べてあまり病気の実体については知られていないのではないかと思います。
緑内障は目の前方にたまっている水(眼房水)が流れ出なくなることで、眼の中が水でパンパンになり(眼圧が高くなり)、視神経がダメージを受けて、最終的には視覚がなくなってしまう病気です。
原因は遺伝的な素因が関与している原発性と、目の炎症や腫瘍などから二次的に起こる続発性に分けられます。

症状としては充血や角膜の白濁、目が大きくなる、目を痛がるといったところが主なものとなります。
人の場合は視野の欠損が初期症状であるようですが、動物の場合は初期症状で気がつくのは無理なので、気がついた時点ですでにかなり悪化してしまっています。病院で診察したときには眼圧はかなり高くなっており、緊急に眼圧を下げないと失明してしまうという状況が多いようです。

治療は、眼圧が高いときにはマンニトールなどの高浸透圧利尿剤などを使って眼球を脱水させて眼圧を下げます。それから数種類の点眼薬を使用して眼圧をコントロールしていきます。
その後の治療は視覚が残っているかどうかで変わってきます。
発見時にすでに高眼圧の状態が数日続いていた場合は、視神経が回復不能なダメージを受けているため、残念ながら眼は見えなくなってしまっています。その場合は、治療の目的は高眼圧による目の痛みをいかにコントロールするかになります。このためには、前述の点眼薬を使用するほか、手術で義眼を挿入したり、眼内に薬剤を注入して毛様体といわれる眼房水を作る部位を壊してしまう処置などをします。どの治療を行うかは、見た目を良くしたいのかどうかや動物の状況から飼い主さんとの相談で決めていきます。
視覚がまだ残っている場合は、視覚を残すために厳密な眼圧のコントロールを実施します。軽度の場合は点眼薬でコントロールできますが、最終的には手術が必要になることが多いようです。手術は眼房水を排泄する小さいバルブを埋め込んだり、レーザーで毛様体を焼いたりしますが、どれも実施できる機関が限られているため、私の病院では緑内障の患者さんはなるべく早く専門の病院に紹介して視覚を保存できるようにしています。
また、原発性緑内障は片眼が発症すると、数年のうちに逆の眼も緑内障になることが多いので、残りの眼に予防的な点眼を始める必要があります。

今のところ多くの緑内障の症例は視覚の消失に至るケースが多いですが、犬は我々に比べて視覚以外の感覚(嗅覚や聴覚)が発達しているので、視力が消失しても普通に生活しているように見え、気がつかないこともよくあります。
もちろん見えるに越したことはないのですが、緑内障は視覚消失後の治療をどうするかで悩むことが多いと思います。この辺は獣医さんとよく相談して決めてもらいたいと思いますが、なかなか難しい問題だと思います。

緑内障に限らず、眼の病気は上述のように数日の手遅れで視覚の消失となってしまうことが多いので、眼に関しては異常に気づいたら早めに病院に行くことをお勧めします。

第33回 蛋白漏出性腸症 2012.4.11
みなさんこんにちは。4月になってしばらくたちますが、みなさん新生活には慣れたでしょうか?私は4月になっても特に変わりなく、そしておそらくこれからもずっとこのままなので、転勤とか入学とか聞くと少しうらやましくなってしまいます。でも、引越しはめんどくさくて嫌いなので、まあこれでもいいかなと思ってしまいます。

さて、今回は少し聞きなれないかもしれませんが、蛋白漏出腸症という病気です。
この病気は腸から蛋白質が漏れて、体から蛋白質が失われてしまうというものです。
原因としてはリンパ管という栄養を運ぶためのくだの異常や、寄生虫、ウイルス、アレルギー、炎症などによる腸の粘膜の異常などが挙げられますが、単純に単一の原因で起こっているわけではないので、理解するには少しややこしい病気です。

診断は血液検査で低蛋白を調べることでできますが、具体的にいうとTP(総蛋白質)とALB(アルブミン)という項目の低下を確認します。
しかし、この低蛋白は肝臓や腎臓の病気、出血でも起こりうるので、超音波検査や腹水の検査でこれらの病気がないかの確認も必要になります。
さらに原因を追究するには内視鏡や開腹手術による腸の生検が必要ですが、病気の状態や動物の年齢によっては仮診断だけで治療に入ることもあります。

症状は下痢や嘔吐、削痩といったものがあります。
この症状は病気の程度によりさまざまで、ほとんど症状がなく低蛋白のみの場合から、ひどい下痢でがりがりに痩せている場合まで幅広くあります。
また、低蛋白血症が重度になると(アルブミンが1.5以下)、腹水や胸水、手足のむくみが生じます。
腹水がたまるとおなかが張ってカエルのようになってしまい、胸水がたまると肺が圧迫されて呼吸が苦しくなります。

治療は蛋白漏出性腸症そのものに対しては有効なものはありません。原因となる異常の治療をすることで自然と蛋白の喪失が食い止められるので、原因を追究し、原因を治療する必要があります。
寄生虫やウイルスといった感染性のものはそれぞれに有効な治療で改善しますが、リンパ管の異常や炎症性腸症は食餌療法やステロイド、免疫抑制剤など特殊な治療が必要になります。
先ほども書いたように腹水や胸水は蛋白が失われてしまったために二次的に起こっているので、腹水や胸水を抜いてもまたすぐにたまってしまいます。
ただ、あまりにも水がたまってしまう場合や、重度の低蛋白で命が危ないときはヒトの蛋白製剤を点滴で入れることもあります。これは一時的な時間稼ぎで、しばらくするとまた元に戻ってしまうので、その間に適切な治療を行います。

この病気は寄生虫などによる感染が原因である場合を除いて完治が難しい病気なので、生涯何かしらの治療が必要になることが多いです。
症状が軽い場合は食餌療法などで維持できることもありますが、重症の場合は強い薬物療法をしてもうまくコントロールできず残念な結果になってしまうこともあります。
どちらにしても場合も早い段階での治療を始めることが重要です。慢性的に下痢が続くときはこの病気のことがあるので、一度病院で血液検査をしてみてはどうでしょうか。

第32回 尿石症 2012.03.21
みなさんこんにちは。3月も残し少しになりましたが、この時期は別れの季節ですね。学生を終えてからはあまり意識しなくはなりましたが、それでもこの時期になると何人かの方から転勤などでお別れを知らせていただくことがあります。こんな私でも、もう会うことがないと思うとすごくさみしい気分になってしまいます。

さて、そんなセンチメンタルな今日この頃ですが、今回は尿石症です。以前も膀胱炎、尿道閉塞の項目で少し触れたことがありますが、今回は尿石症だけにスポットを当ててみたいと思います。

尿石症は、犬でも猫でもよく見かける泌尿器の病気ですが、血尿や頻尿の症状が見られるときもあれば、まったく症状がなく健康診断で偶然見つけられることもあります。
そもそも、なぜ尿中に石ができてしまうかということですが、細菌性膀胱炎、門脈体循環シャント、高カルシウム血症といった石ができやすくなる病気で二次的に発生する場合を除いて、はっきりとした原因はわかっていません。
食事や、体質などが影響するようですが、根本的な原因がはっきりしないことも多々あります。

先ほどからイシイシといっていますが、石も何種類かあって、犬猫で多いのはリン酸アンモニウムマグネシウム(ストラバイト)とシュウ酸カルシウムの2種類です。割合は半々といったところでしょうか。
他にも尿酸塩やシスチンといったものもありますが今回は割愛します。

さて、この2つの石ですが、どちらができるかで治療の方針、困難さはまったく変わってきます。
ストラバイトは尿がアルカリ側に傾いたときにできやすく、細菌性膀胱炎の後などに一時的にできることもありますが、この石は食事療法(療法食でいうとpHコントロールやs/d、c/dなど)で溶かすことができ、再発の予防も簡単にできます。しかし、食事療法は根本的に体質を改善するわけではないので場合によっては生涯続けなければならないこともあり、そういう意味では簡単ではないのかもしれません。
一方、シュウ酸カルシウム、これは厄介です。シュウ酸カルシウムは尿が酸性側に傾いたときにできますが、この石は一度できるとほぼ消えません。一応、シュウ酸カルシウム用のフード(u/dなど)はありますが、予防効果は期待できても、融解に関してはあまり期待できないといわざるを得ません。
では、シュウ酸ができたときはどうするかということですが、これはもう人為的に摘出するしかありません。1ミリくらいの小さい状態であれば膀胱を圧迫して尿道からがんばって出すことも可能ですが、ある程度の大きさの石になると外科的に膀胱を切開して摘出しなければならなくなります。
また、先ほども述べたとおり、石ができるのは体質が大きく関与しているので、摘出してもまたできてしまう可能性が高いので、摘出したあとは、石を作らせないための食事療法や、石をできにくくするためにクエン酸製剤やビタミンB6や利尿剤などの薬を使用します。しかし、それでもできてしまうことは多々あります。

尿石があることで、膀胱炎や尿道閉塞になることがありますし、症状がなくてもどんどん大きくなると手術しなければならなくなります。
すぐに命にかかわるわけではないのですが、長期的な治療を考えなければならない点で厄介な病気といえます。もし、この病気になったときはかかりつけの獣医さんとよく相談して、納得の行く治療法をしてあげてください。

第31回 副腎皮質機能亢進症 後編 2012.03.07
みなさんこんにちは。3月になってようやく暖かい日も増えてきて雪も少しずつ解けてきました。この時期は犬の散歩後は足がどろどろになって大変ですよね。私の犬はダックスなので足だけでなくおなか周りも大変なことになってしまうので、この時期はお散歩はお休みのことが多いです。まあ、もともとあまり散歩は行きませんが、早く春がきてほしいものですね。

さて、今回は前回の続きになります。クッシングと診断がついたら次は治療に入ります。
治療は原因を取り除く根治を目的とした治療と、過剰に出ているコルチゾールを抑える対症療法に分けることができます。
原因は前回書いたように、副腎そのものがおかしくなっている場合と副腎に指令を出している脳の一部(下垂体という部分)が腫瘍化している場合になりますが、副腎が片方だけ腫瘍化している場合などは摘出手術が選択されることもありますが、下垂体の場合は今の時点ではあまり手術は選択されません。
いずれは獣医療でも脳外科が発達すれば手術は増えるかもしれませんが今の時点ではあまり一般的には行われていません。したがって、ほとんどの場合はコルチゾールを抑える対症療法がとられることが多いように思います(放射線療法もありますがこちらもまだ一般的には行われていません)。
コルチゾールを抑えるためには継続的に薬を飲み続ける必要があります。以前は、副腎を破壊することでコルチゾールの量を減らす薬しかなく、破壊しすぎると今度は逆にコルチゾール欠乏になってしまうという副作用がありましたが、今はコルチゾールを生成する過程を邪魔するトリロスタンという薬ができたおかげで、以前よりも安全に治療することができるようになりました。
うまく薬が効くと飲み始めて数日で飲水量、尿量が減ってきます。そのほかの脱毛といった症状も数ヶ月で改善していきます。

気がついていないだけでこの病気を持っている中高齢の犬は結構いると思いますが、実は治療しなくても問題ない場合もたくさんあります。
治療するかどうかは、多尿や皮膚の症状が気になるかどうかで判断します。つまり、これらの症状がなければ治療しないという選択をすることもあります。
もちろん治療するに越したことはないのですが、薬が高価であったり、毎日投薬しなければならないなどの事情もあるので、我々も絶対とはいえないところです。

ただ、この病気で命にかかわってくる症状として血栓ができやすくなるというのがあります。血栓ができること自体あまり多くはないですが、肺などに血栓ができることで突然死してしまうことがあります。
私も以前はクッシングのときは、治療するかどうかは飼い主さんの判断に任せていたのですが、血栓のことを考えるともしかすると症状が軽くても治療したほうがいいのかも知れないのかなとも思ったりしています。
この辺は今後変化していく可能性があるのではないかと考えています。

この病気になっても元気食欲は変化がないため、この病気を訴えて来院するよりも、健康診断などで発見されることが多いと思います。もし、おうちの犬に多飲多尿、脱毛、腹囲膨満といった症状があるようでしたら一度病院で検査してもらってみてはどうでしょうか?

第30回 副腎皮質機能亢進症 前編 2011.02.29
みなさんこんにちは。今年はうるう年なのですね。うるう年は4の倍数の年に一年が一日多くなるのですが、実は4の倍数でもうるう年でないときがあるのです。たとえば2100年はうるう年ではありません。理由は地球の公転の周期365.2422日だからなのです。これだけではさっぱりだと思うのですが、詳しく知りたい方は調べてみてください。なかなか面白いですよ。私はこの話を中学の数学の先生に聞いて感心した覚えがあります。

さて、今回の病気は副腎皮質機能亢進症です。別名ではクッシング症候群とも呼ばれます。どちらかというとこちらのほうがよく使われるかもしれませんが、病気としては読んで字のごとく副腎という臓器の皮質という部分の機能が過剰になってしまう病気です。
この病気は中高齢の犬でよく見かける病気で、猫ではあまり見かけないように思います。

そもそも副腎という臓器はあまり聞きなれないかもしれませんが、腎臓の横にある器官で、さまざまなホルモンを分泌し生体内のバランスをとるためにとても重要な臓器です。
クッシングはこの臓器から出ているコルチゾールとよばれるホルモンが過剰に産生される病気です。
過剰に産生される原因は、この臓器自体に問題があってなる場合と、脳にあるこの臓器にホルモンを作る指令を出す部分が暴走してしまう場合があります。

症状はコルチゾールの過剰によるさまざまな臓器の異常ですが、もっともよく見られるのは飲水量の増加と尿量の増加です。水は通常一日あたり体重あたり60mlまでが正常範囲ですが、クッシングになると100ml以上飲むようになります(体重10kgだと1リットル以上)。これは、コルチゾールの影響で尿が大量にできるために喉が渇いてしまうからです。
他には、背中から体側にかけての毛が薄くなったり、筋力の低下により中年男性のようにおなかがぽっこりと膨れてしまったりします。
他にもいろいろな症状が見られるこの病気ですが、上記のような毛が薄くなり、丸っこい体型になるといった特徴的な外貌になり、ほとんどの動物で最近水をよく飲むようになったと相談されるので、慣れるとぱっとみただけでこの病気くさいなとわかるようになります。

診断は、なかなかややこしいのですがざっくりというとコルチゾールが過剰に出ているかどうかを血液検査で調べます。この検査はまず基準となる普通の状態で血液を採取し、その後副腎を刺激する薬剤を投与し、その一時間後に再度採血をしてどれくらいコルチゾールが上昇するかを測定するというものです
。他にも上述の脳の問題か、副腎の問題かを判定するための検査もありますが、とりあえずクッシングかどうか最初に調べるのはこの検査になります。

少し長くなってきたので、今回はこの辺でいったんおしまいです。次回治療について説明したいと思います。
つづく

第29回 猫ウイルス性鼻気管炎 2012.02.15
みなさんこんにちは。私は映画が結構好きで、ありきたりなものを浅く広く鑑賞するのですが、よく悪のボスが長毛の猫を抱いていることがありますよね。もし、あの猫が病気になったときはちゃんと病院に連れて行くのでしょうか?なんだかんだいいながら結構かわいがっているみたいなので、意外とあの悪そうなボスも心配で夜とかずっと寝ないで看病とかしてしまうのでしょうか?

さてそんな話はまったく関係ないですが、今回は猫のウイルス性の病気です。
この病気はくしゃみ、鼻水、目やに、発熱といった症状がみられるので、猫カゼとも言われることがある病気です。

原因はヘルペスウイルスの感染で、上記のように我々が風邪をひいたときのような症状が見られます。
猫は鼻が利かないと食事をとらなくなることがあり、鼻水で鼻が詰まってしまうと匂いがわからないために食欲がなくなってしまいます。
大人の猫もなることもありますが、大半は生後2ヶ月くらいの子猫が多い印象があります。また、子猫ほど症状が重篤になる傾向があり、成猫であれば一週間くらいで自然と治るのに対して、子猫だと脱水し、衰弱して命を落としてしまうこともあります。
混合ワクチンを接種しているとかかりにくくなり、たとえかかっても軽症ですみます。
この病気は他の猫にも伝染するので、多頭飼育の家庭ではどんどん他の猫にうつっていって大変なことになってしまうこともあります。また、病院のように弱った猫が集まるところでは、成猫でもウイルスをもらってしまうことがあるのでこの病気の猫さんは時間をずらして他に患者さんがいないときにきてもらったりします。

治療は基本的には自力で回復するしかないのですが、炎症を起こした鼻や喉の粘膜に二次的に細菌が感染するのを防ぐために抗生物質を投与したり、抗ウイルス作用のあるインターフェロンを投与したりします(一般的にウイルスと細菌はごっちゃで考えられることが多いですが、実はまったく別物で、ウイルスには抗生物質は効果ありません)。
子猫で脱水を起こしている場合には点滴をしたり、流動食を給餌したりと支持療法も重要です。

適切な治療をすれば多くは無事に元気になりますが、まれに慢性化してしまい冬場になると鼻がぐずぐずしてしまうようになることもあります。
我々は風邪ですぐに病院に行くことはあまりないですが、人よりずっと小さい猫にとっては数日の様子見が命取りになってしまうことも十分にありえますので、なるべく早めに病院に連れて行ってあげるようにしていただければと思います。
あと、犬はこのような風邪といった病気はありません。なので、冬場に熱があるとか食欲がないのは風邪のせいかなと思わずに早めに病院で診てもらいましょう。

第28回 毛包虫症 2011.02.08
みなさんこんにちは。札幌では先日より雪祭りが開催されていて、道外からたくさんの観光客が集まるようです。有名な祭りなのですが、周りの人に聞いてみると札幌に住んでいる人はほとんど行かないみたいですね。私は大学から北海道に来たので、ものめずらしくて最初のころは見に行っていましたが、最近は会場の横を車で通るだけで満足してしまいます。だいぶ道民らしくなってきたのでしょうか。

さて、今回はあまりなじみはないかもしれませんが、毛包虫と呼ばれる寄生虫のお話です。
他にもアカラスやニキビダニとも呼ばれることがありますが、下の絵のような顕微鏡で見ないとわからない小さいダニが皮膚で異常に増殖してしまう病気です。
実はこのダニは正常な犬猫の皮膚にも少しいて、さらに人にもいるダニです。これが何らかの原因で過剰に増殖して、脱毛や皮膚炎を起こします。

では、何が原因で増殖するのかというと、免疫力の低下です。
たとえば、アレルギーの治療で長期的にステロイドを服用している、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能低下症といった疾患にかかっている場合などで免疫力が低下してしまいます。
他にも、原因がはっきりせずに毛包虫が増殖することもありますが、多くは遺伝的に皮膚や免疫力に異常がある場合が多いようです。

症状としては、脱毛や皮膚の赤み、黄土色のがびがびがの形成がみられ、病変は一部だけの時と、全身性に広がる時があります。
また、同時に細菌の感染も生じて、皮膚が膿んでしまっていることもあります。こうなると非常に痒みが強くなってしまいます。
よくみられる病変の部位は、手や足の先、顔、背中などが多いですが、全身性に広がると体中の毛が抜け落ちてしまうこともあります。

治療は、ダニを除去する薬を使用します。この薬は週に1回注射または口から飲むのですが、今までの経験では注射したほうが効きがよい印象があります。
ただ、注射だと週1回来院が必要なので、どうしても難しい場合は飲み薬で治療することもあります。
上にも書いたように、免疫力が低下していることが原因のことが多いので、そちらのほうの治療をしないと、いつまでたっても治りません。しかし、原因の治療はなかなか一筋縄でいかないことが多く、完治が難しいまたはすぐに再発してしまうということもあります。

よく伝染するかどうかを聞かれることがありますが、先述のとおりもともと皮膚にいるダニの過剰増殖であるので、うつることはほとんどありません。しかし、このダニが体中にびっしりいると思うとゾワッとするので、早く直してあげたいですね。

第27回 去勢手術 2012.02.01
みなさんこんにちは。巷ではインフルエンザが猛威を振るっていますが、皆さんは大丈夫でしょうか?
私は風邪はよくひきますが、幸いインフルエンザには今までかかったことがありません。
しかし、最近歳のせいか、以前に比べて免疫力が落ちてきたように感じるので、初インフルエンザを体験する日もそう遠くないのかもしれません。

さて、今回は去勢手術についてのお話です。ご存知かと思いますが、去勢手術はオスの動物の精巣を摘出する手術で、いわゆる中性化、不妊手術と呼ばれているものです。
我々は去勢手術のことをキャストといいますが、英語のcastrationからきているのだと思います。

去勢手術は、数ある外科手術の中でも簡単な手術で、獣医になって最初にする手術は猫の去勢手術のことが多いのではないでしょうか。
術式を簡単に説明すると、猫の場合は陰嚢の真ん中を切開して精巣を取り出し、精巣に向かう血管と精管を糸で縛って切り取ります。切開した陰嚢は特に縫合しなくてもよいのでそれで終了になります。
この点については最初は驚きましたが、すでに中身がなくなっているので問題なく傷は癒合してくれます。猫の去勢は慣れると数分でできるようになります。
犬の場合は陰茎の根元付近の皮膚を切開し、陰嚢から精巣をその切り口まで押し上げてそこから精巣を取り出します。犬は陰嚢を切ると血がたくさん出るので、陰嚢を避けて切開します。犬の場合は切開創を縫合するので少し猫より時間はかかりますが、大体10分くらいで終わります。

去勢手術自体のメリット、デメリットはいろいろなところで説明されていると思うので、ここではあまり一般的には知られていないことを少しあげてみます。
犬でマーキングやマウンティングがなくなるといわれていることがありますが、私の経験では手術の時点ですでにマーキングやマウンティングがすっかり日常化している場合は、回数が少しは減りますがあまり変わらない印象があります。雄性ホルモンとは関係なく、すでに癖になってしまっているのかもしれません。
あと、猫ではオス猫特有のあのきつい尿の匂いがかなり減ります。これは飼育上で非常に助かる変化ではないでしょうか。さらに、猫はあのオス特有のがっちりしたあごの筋肉が、去勢するとびっくりするくらいなくなって、ほっそりします。これは好き嫌いがありますが、ちょっと寂しい変化かもしれません。

よく何歳くらいで手術すればいいか尋ねられますが、当院では大体6ヶ月齢くらいから麻酔は問題なくかけられるようになります。上はできれば5歳くらいまでには終わらせてしまいたいところですが、10歳くらいまでで健康であれば大丈夫だとおもいます。

ちなみに、去勢手術をしない理由でよく聞くのは、お父さんが反対するからというのが多いようです。
同じ男として同情してしまうとのことですが、それもわからないでもないですが、メリット・デメリットを家族で話し合って決めてあげてください。獣医さんに相談するのもよいと思います。

第26回 甲状腺機能低下症 2012.01.18
みなさんこんにちは。いまさらながら今年一回目の更新です。
先日センター試験のトラブルの記事を新聞で読みましたが、毎年この時期になると大学受験のころのことを思い出します。もうはるか昔のことになるのですが、大学受験はとてもつらかったのは今でもはっきりと覚えています。
生涯で限界を超えて最もがんばったのは大学受験だったと思います。もちろん今もがんばってはいますが。

さて、今回は甲状腺機能低下症です。この病気は高齢の大型犬がよくなる病気です。
甲状腺は喉のところにあるホルモンを分泌する器官ですが、このホルモンの分泌が減ってしまうのがこの病気です。
原因は特発性の甲状腺萎縮か免疫介在性の甲状腺炎によることが多いようです。

そもそも、甲状腺ホルモンは細胞の代謝活性に関与するホルモンですが、このホルモンが低下することによって、代謝や免疫力が低下し、さまざまな症状が出てきます。
症状としては活発性がなくなる、太りやすくなる、皮膚などの感染症にかかりやすくなる、体幹や尻尾の毛が薄くなる、寒さに弱くなる、後ろ足の筋力が落ちてくるといったものが見られます。
皮膚の感染症がなかなか治らない場合にこの病気を疑うことがあります。

診断するには、甲状腺ホルモンの量を血液検査で調べる必要があります。
症状があり、甲状腺ホルモンの低下があればこの病気と診断し、治療を始めます。

治療は、不足しているホルモンを補充するために、甲状腺ホルモンを毎日飲みます。
大体2週間くらいで活動性が改善することが多いように思います。うまくコントロールできると、今まで年のせいで元気がなかったと思っていた犬がうそのように活発になり、皮膚などの症状も改善します。

基本的には生涯甲状腺ホルモンの内服が必要ですが、それほど高い薬でもなく、副作用もあまりないので、さほど苦になる治療ではないと思いますし、うまくコントロールできれば寿命も全うできます。
おうちのわんちゃんが、最近年のせいか元気がないなと思っている方は一度病院で相談してみてはいかがでしょうか?

第25回 誤食(鳥の骨) 2011.12.21
みなさんこんにちは。いよいよ今年も残すところ後10日ですね。このページの更新もこれで今年は最後になると思います。来年はこれまでと違った何か新しい企画をしたいと思っていますが、今のところ考え中です。期待せずにおまちください。

さて、今回はこの時期に多い病気(?)です。毎年クリスマスの後に某白ひげのおじさんの作ったフライドチキンの骨を食べてしまったというわんちゃんが来院します。普段なら食べられないよう気をつけるところですが、ついつい人もイヌも浮かれてしまって油断した隙にぱくっとやられてしまうようです。

ご存知の方も多いと思いますが、鳥の骨は豚や牛の骨と違って割ると縦に裂けて、先端が鋭くなります。この先端が胃や腸に刺さると大変なことが起こるわけです。最悪の場合は胃や腸を貫いて急性腹膜炎を起こしてしまうこともあります。

では、どうするのがよいでしょうか?まず本当に食べてしまったかどうかを調べるためにレントゲンを撮ります。骨はレントゲンに写るので、どのくらいの大きさのものがあるかがわかります。
おもちゃなどをうっかり食べてしまった場合は、薬などを使って吐かせればよいのですが、鳥の骨の場合、無理に吐かせることで食道に骨が刺さってしまうことがあるので、逆に危険です。
したがって、内視鏡(胃カメラ)を胃に入れて、傷つけないように摘出するか、骨の大きさによっては手術で胃を切開して取り出す必要があります。なんにせよ、数百円のフライドチキンが数万円の医療費になってしまい、とんだクリスマスになってしまいます。

この辺のことまではよく言われていることですが、実は鳥の骨は消化してなくなってしまいます。よほどの大きさの骨でなければ2−3日後に再度レントゲンを撮れば溶けてなくなってしまっています。

しかし、もちろん何もしないで消化を待つのはリスクがあります。先に述べたようにとがった骨が刺さってしまう危険性はあるわけですから、もっとも安全なのは早めに摘出してしまうことであることは変わりありません。
どのように処置するかは、骨の大きさや動物の状況をみて飼い主さんとの相談で決めます。

処置をするにしろ、様子を見るにしろ苦渋の決断になります。しかし、たった一つだけ確実で安全な方法があります。それは、骨を食べさせないということです。食べ終わったらすぐに片付けて、捨てたゴミ箱は動物の届かないところにおきましょう。それだけです。

ではよいクリスマスをお過ごしください。来年もよろしくおねがいします。

第24回 老齢性前庭疾患 2011.12.14
みなさんこんにちは。いよいよ今年もあと少しとなり、世間はクリスマス一色といった感じですね。この年末にかけてのなんとなく心躍る雰囲気はいくつになっても楽しいものですが、実際終わってみると特に何もしなかったなんてこともよくあります。

さて、今回は老齢性前庭疾患です。前庭というのは耳の中にある器官で、この前庭周辺の器官で平衡感覚や回転の認識をしています。私たちが普段まっすぐ立っていられるのも、この前庭系が平衡を認識させてくれているからなのです。
つまり、ここがうまく働かないといま自分がどういう状態なのかがわからなくなり、傾いているのかどうかも認識できなくなり、まっすぐに自分を保てなくなってしまうというわけです。

今回の老齢性の前庭疾患というのは、主に高齢の犬(8歳くらい)でよく見られる、原因がはっきりしていない突発性の前庭障害で、ある日突然首を傾けて(斜頚)、目が左右に揺れて(眼振)、立てなくなってしまうという病気です。
目だった前兆なく突然おこることが多いので、てんかん発作と間違われることが多いのですが、てんかん発作と違って数分たっても元に戻りません。

診断としては、このような症状を起こすほかの病気(脳疾患、中耳炎、内臓疾患など)の可能性を血液検査や身体検査で否定して、ほかに可能性がなければこの病気と推定します。
実際に脳に問題がないかをしらべるのはMRIなどが必要になりますが、麻酔が必要であったり、設備のある病院が限られるなどの理由から多くは推定するところまでで治療に入ってしまうことが多いです。

しかし、治療は実はあまりありません。多くは無治療でも、時間とともに回復してきます。
大体数日から1週間くらいでしょうか。ただ、症状がひどくて動物が錯乱している場合などは鎮静剤などを使ったり、飲食ができない場合は点滴をしたりといった対症療法を実施する必要があります。
眩暈の薬や吐き気止めを投与することもあります。
ほとんどの場合は、日常に支障ない程度まで回復しますが、しばらくしてからまた再発することもあります。

この病気は突然発症して、動物がねじれるようにのた打ち回るので、初めて見た飼い主さんはとてもびっくりしてしまいます。しかし、動物自身はもっとびっくりしているので、こういうときこそ人間が心を落ち着けてかかりつけの病院に電話して対応を仰げるように常日頃から心の準備をしておきましょう。

第23回 胃拡張胃捻転症候群 2011.11.22
みなさんこんにちは。いよいよ札幌でも雪が降り始め、これから雪に覆われた長い冬が始まると思うと少し憂鬱担ってしまう今日この頃です。昔は雪が嫌いになるなんと思いもしませんでした。

さて、今回は胃拡張胃捻転症候群です。大型犬を飼っている方以外はあまり知らない病気かもしれませんが、食後に激しい運動をすることで、胃が回転してしまい、ねじれることで胃の入り口と出口がふさがれてしまい、胃にガスがパンパンにたまってしまうという病気です。
話だけ聞くとたいしたことないように思うかもしれませんが、非常に危険な状態で、急いで処置をしないと胃が壊死を起こし、膨らんだ胃が血管を圧迫して血液の循環不全がおこるため、ショック状態に陥ってしまいます。命を脅かす状態になる可能性も十分にあります。

先に書いたとおり、胸の深い大型犬(シェパード、ボルゾイなど)での発生が多く、ほとんどが食後に発生しますが、小型犬でもまれに発生します。
吐きたそうなのに何も吐けない、異常によだれが出るといった症状があればこの病気を疑います。数時間で、元気が無くなり、呼吸も浅く速くなり、腹部がパンパンになっていきます。おなかをたたくと太鼓をたたいたときのような音がします。

診断は、レントゲンを撮るとすぐにわかります。胃にたまった異常なガスと、胃のねじれ具合をチェックします。

治療は、ショック状態であればすぐに点滴を実施し、体表から針を刺して胃のガスを抜きます。針を刺すとシューと空気が抜けて胃が縮んでいきます。
そのあとの治療はいろいろと方法がありますが、胃の回転を直して、今後回転しないように胃を体に固定する手術を実施するのが再発が最も少ない治療となります。
胃の洗浄をして胃を空にするだけでも一時的には捻転はおさまりますが、結構な確率で再発するといわれています。
もちろん、胃の固定になれば開腹手術になってしまうので、そのときの動物の状態によっては手術は厳しいこともありうるので、どの治療をするかは状況ごとに変わっていきます。
無事に捻転が治って、胃のダメージもすくなければ次の日くらいには元気になりますが、ここで油断してまた暴れるとすぐに再発するので少なくとも10日は安静にする必要があります。

大型の犬を飼っている方は、注意していることが多いのですが、大型犬に限らず食後の過度の運動はこの病気の引き金となりうることがあります。したがって、食後は1時間は安静にするようにし、すぐに散歩などは行かないようにすることが大切です。

第22回 糖尿病 2011.11.21
みなさんこんにちは。おひさしぶりです。
パソコンの調子がわるくひと月近く更新できませんでした。無事に復帰できたのでまたがんばって更新したいと思います。決して2週間くらい前には復帰していたけどさぼっていた訳ではありません。

さて、今回は糖尿病です。 糖尿病はよく知られた病気であるとは思いますが、簡単にいえばインスリンと呼ばれるホルモンが不足し、結果として血糖値が上昇したり、尿に糖がでたり、やせてきたりする病気です。
勘違いされやすいのですが、血糖値の上昇は症状の一つであってこれが諸悪の根源ではないということです。大本の原因はインスリンの不足なのです。

では、インスリンとはそもそも何かということになるのですが、インスリンは食事などで体の血糖値が上昇すると膵臓から分泌されるホルモンで、血液中の糖分を細胞に取り込ませる働きを持っています。
つまり、インスリンが足りないと食事をしても体に糖分が吸収されず、尿からどんどん出て行ってしまうのです。この状態が続くと体がエネルギー不足に陥り、さまざまな弊害がでてきます。
その中でももっとも恐ろしいのが糖尿病性ケトアシドーシスといわれるものです。動物の場合は、糖尿病で病院に来院するのはこの状態のことがほとんどですが、非常に危険な状態で治療が遅れると数日で死んでしまいます。

症状は、まず最初に気がつくのが多飲多尿と食欲の亢進です。初期の頃はこれくらいしか症状はありませんが、この状態でも既に血糖値は300以上(正常は100前後)にはあがっています。
この状態が続くと次はやせてきます。先ほども述べた通り、糖尿病のときは食べても身になりません。従って、やたらと食べる割にはやせてきます。
そして、この後にケトアシドーシスが待っています。ケトアシドーシスになると嘔吐や食欲がなくなり、ぐったりします。すぐに治療が必要になりますので病院にいってください。1日でも様子を見てはだめです。

治療にですが、細かく書くと非常にややこしくなるのですが、ざっというとインスリンを注射します。インスリンが不足する理由はいろいろありますが、とりあえず足りていないので外から補ってあげる必要があります。
どのくらいの量を注射するかは、少しずつ調節していきますが、量がしっかり決まって安定すると、多飲多尿も治まり、体重も増加してもとのように元気に戻ります。
しかし、インスリンの不足がなおる訳ではないので、生涯インスリンの投与が必要になることが多いです(猫の場合はしばらく投与すると必要なくなることがたまにあります)。
毎日の注射と、定期的な通院が必要になるのでなかなか大変ではありますが、この病気と戦えるかどうかは飼い主さん次第なのです。

予防としては、太らせないことが第一です。多くは遺伝的な要素が関与しているので、どうしようもないことが多いですが、発症を少しでも遅らせるためには適正体重を維持していくことが大事です。
上でも書いたように、多くの場合はケトアシドーシスになって危機的な状況で来院することが多いですが、多飲多尿の時点で気がついてあげることができれば苦しまないで治療を開始できます。

もし、今時点で最近水をよく飲んでるなと思い当たる節がある方は一度病院で検査を受けてみてはいかがでしょうか?
血液検査と尿検査で簡単に糖尿病かどうかは診断できます。

第21回 尿道閉塞 2011.10.19
みなさんこんにちは。先週はついに休んでしまいました。今週もずるずると休みそうになってしまいましたが、何とか踏ん張りました。

さて、今回は、尿道閉塞です。尿道閉塞というのは膀胱から陰茎までの間で尿の流れが妨げられ、その結果、尿が出せなくなるという病気です。
大概は石が詰まることが多いです。したがって、もともと尿石症があるはずなのですが、詰まって初めてそのことに気づくことも多々あります。これは猫でよく見られる病気で、ほとんどはオスで発生します。猫のオスは、メスに比べて尿道が狭く、膀胱で結石ができると簡単に詰まってしまうのです。

症状は、トイレに頻繁に行くのだけど、全然尿が出ていない、出たとしても、ぽたっと少しだけで、色もなんとなく赤いというようなものが見られます。
膀胱がいっぱいなので非常に苦しく、元気や食欲もなくなります。これが苦しいのはみなさん想像できると思います。この状態が1日も続くと、腎臓にもダメージが生じて非常に危険な状態になります。
症状は膀胱炎と似ているのですが、膀胱炎の場合は膀胱は空っぽなのに対して、この病気のときは膀胱がパンパンなので下腹部を触るとすぐに見分けがつきます。

治療は、まずは詰まっている石を何とかします。陰茎の先で詰まっていることが多いので、陰茎の先にカテーテル(細い管)を入れて、生理食塩水で勢いをつけて膀胱に戻してしまいます。大概は簡単にもどるのですが、石が大きすぎたり、尿道のダメージが大きすぎて戻らないときは、すぐに手術をしないとだめなこともあります。
石を戻したら、膀胱内の尿を抜いて、あとは石を何とかする治療をします。この尿を抜くときの動物のほっとした顔をすこしなごみます。石の治療は食事療法がメインになりますが、再発することも多くあり、なかなか厄介な病気です。

この病気は冬に多くなる傾向があるようです。というのも、冬になると飲水量が減るため、尿の回数もへるので、石が膀胱でできやすくなるからです。膀胱炎ですぐに命にかかわることはめったに無いですが、この病気は数日放置すると死んでしまいますので、おうちの動物がおしっこが出てないようでしたら急いで病院につれていってください。

2011.10.12
今週はお休みさせていただきます。ついに落としてしました。

第20回 検査その2 2011.10.05
みなさん、こんにちは。スタッフに前回がおもしろくなかったと文句を言われてしまいましたが、はじめてしまったものは仕方ないのでキリのいいところまでは続けさせていただきます。

ということで血液検査の続きです。

CHOL(コレステロール) 110-320mg/dl
この項目は、みなさんおなじみですね。しかし、動物の場合この項目は肝臓や胆嚢の異常を知るために調べます。もちろん、人のようにメタボのときにも上昇しますが、あまりその目的で調べることはありません。
ちなみに、動物の場合は高脂血症でも、人のように100年近くは生きないので、血管の病気(心筋梗塞など)はあまりおきません。

BUN,CREA(尿素窒素、クレアチニン) 7-27mg/dl , 0.5-2mg/dl
腎臓の機能を示します。腎臓がうまく働かなくなると、この数値が上昇します。しかし、この数値が上昇するのは腎臓が8割近くだめになってからなので、この数値が上昇し始めたときはかなり腎臓が痛んでしまっているといえます。
ちなみに、血液検査よりも先に腎臓の異常を知るには、尿検査が有効です。尿の色が薄くなってきたら腎機能低下の可能性があります。

GPT(ALT) 5-80IU/l
肝臓の細胞内にある酵素です。したがって、肝臓の細胞が破壊されたときに上昇します。肝不全、毒物の摂取、肝臓の腫瘍などが原因で肝臓の細胞は破壊されます。人だと、飲酒などで肝臓がやられたときにあがるようです。私はいまのところアルコールで肝不全になった動物が来院したことはありません。
ちなみに、肝臓の細胞が破壊されつくした場合、逆にこの数値が減少してしまうことがあります。

GGT(γ-GPT) 0-10IU/l
これも肝臓の数値ですが、肝臓の異常に敏感で、特に胆嚢、胆管が悪い場合にあがります。人の健診だと、「ガンマが高いですね、お酒を控えてくださいね」などといわれるアレです。
これについては、ちなみには思いつきませんでした。

Bil(ビリルビン) 0-0.5mg/dl
この数値が上昇すると黄疸という状態になります。人の場合と同様に、白目の部分が黄色くなっている状態です。あと、全体的に皮膚や粘膜が黄色味を帯びます。尿もオレンジ色になります。黄疸は、肝臓や胆嚢の異常で起こります。あと、たまねぎ中毒のように赤血球が壊れたときにも増加します。黄疸が出ているときは、かなりよくない状態とおもってもらっていいです。
ちなみに、猫は絶食を数日つづけるとある種の栄養不足から肝臓にダメージが生じ黄疸がおこります。

ALP(アルカリフォスファターゼ)10-150IU/l
肝臓に存在する酵素なので肝臓の病気であがりますが、肝臓以外にも腎臓、骨、腸などにも存在するためさまざまな原因で上昇します。よく見かけるのは、副腎皮質機能亢進症やステロイド剤を飲んでいるときです。この数値だけでどこの病気かははっきりとはわかりません。
ちなみに、骨にも存在するので、成長期の動物ではこの数値は高めにでるので、6ヶ月齢くらいで避妊手術をするときの術前の血液検査ではこの数値が高いことが多いです。

Ca(カルシウム) 7.5-11.3mg/dl
腫瘍(リンパ腫、多発性骨髄腫など)のときに上昇します。それ以外にも副甲状腺機能亢進症、急性腎不全といったさまざまな原因で上昇します。なんだかよくわからないけど、微妙に高いことがあったりして、少し厄介な数値です。逆に低下するのは、低アルブミン血症や慢性腎不全のときなどです。低下もさまざまな原因でおこります。
カルシウムの増減自体が悪いのではなく、他の病気が原因であることが多いので、他の項目を参考にして原因を追求します。
これもちなみにが思い浮かびませんでした。

これで血液検査説明は終わりです。なんとなくでも各項目の示すところがご理解いただければうれしいです。

第19回 検査その1 2011.09.28

ちょっと、告知です。
当院では病気を早期に発見することで、みなさまの大切な家族の幸せな暮らしを守るために、定期的な健康診断をお勧めしています。そのためのプログラムとして総合健診(ドック)を準備しています。
ドックの内容は以下のようになっています。
1、身体検査(皮膚、眼、耳、口腔内、リンパ節、関節、四肢、生殖器、腹部、心肺音) ¥1000
2、血液検査(血算、生化学13項目) ¥8500
3、レントゲン検査(胸部、腹部) ¥4500
4、超音波検査(心臓、腹部) ¥9000
5、便検査 ¥1000
6、尿検査 ¥1500
合計で25500円の検査を、ドック価格として15500円で実施できます。
セットで実施することで大変お得なのですが、秋の健診強化月間として11月末までさらに2500円引きの13000円で上記検査を実施できます

これから冬に向けて、病気が増えてくる時期ですので、一度健診を受けてみてはいかがでしょうか?
なお、健診は昼の手術時間(1時から4時)にお預かりしてから実施しますので、予約が必要になります。ご不明な点があればお気軽にご相談ください。

ということで、今回から数回はいつもと趣向をかえて各種検査について少し詳しく説明してみたいと思います。
まずは血液検査です。血液検査は普段の診察でもよく実施する検査なので、みなさんもそれぞれの項目の意味について知っておいても損は無いと思います。

WBC(白血球数)正常値6000〜17000/μl
白血球は細菌感染や病気、怪我、そして腫瘍などで体に炎症がおきたときに上昇します。この数値だけでどこが悪いかまでは言えませんが、今現在体に異常が起きていることがわかります。

RBC(赤血球数)正常値5.5〜8.5×106/μl
赤血球は血の主成分で、これのために血は赤いのですが、酸素を運ぶのが主な役割です。赤血球が少ないのが貧血、多すぎると多血症といいます。貧血はみなさんもよくご存知と思いますが、実は血が多すぎるのも問題となります。多血症になると血液の流れがわるくなり、発作などの症状が出てしまうことがあります。

HT,HGB(ヘマトクリット、ヘモグロビン)正常値l37〜55%, 12〜18g/d
この2項目は赤血球に関連する項目ですが、貧血の原因を考えるときに重要になります。どちらも少ないと貧血、多いと多血症を示しますが、 それぞれの減り具合の程度で原因が見えてきます。これについてはかなり込み入った話になるのでまたの機会があればにします。

PLT(血小板数)正常値200〜500×103/μl
血小板は血液を固まらせるための成分です。これがあるおかげで怪我をしたときに血が出ても、自然と出血がおさまります。血小板が減少すると、まったく血が止まらなくなってしまい、少しどこかにぶつけただけでびっくりするくらい内出血が起こります。血小板がなくなるのは、出血で異常に消費してしまったときや、骨髄の腫瘍で作られなくなったときです。まれに生まれつき少ないことがあります。

TP,ALB(総タンパク質、アルブミン)5.1〜7.8g/dl, 2.6〜4.3g/dl
この項目は蛋白質の量を測定しています。栄養状態が悪い以外にも、蛋白質が腎臓や腸から出て行ってしまう病気のときにも少なくなります。また、アルブミンは肝臓の機能が低下したときに低下することより、肝臓の機能の低下を知ることができます。

GLU(血糖値)正常値60〜125mg/dl
これは皆さんよくご存知だと思います。高いときは糖尿病の疑いがあります。猫の場合興奮すると一時的に血糖値が跳ね上がることがあるので、血液だけでは糖尿病と判断できないことがあります。糖尿病とは逆に、血糖値が低下することがあります。これは過度のエネルギー不足か、インスリノーマという膵臓の腫瘍でおこります。高血糖ではすぐには死にませんが、低血糖はほうっておくと死んでしまいます。

今回はここまで。次回に続きます。
なお正常値は検査機械の種類、動物種によって微妙に違いますので、参考程度と考えてください。

第18回 腰部椎間板ヘルニア 2011.09.20
みなさん、こんにちは。ここ数日で急に寒くなり、雪でも降りそうな勢いですが未だ秋のはずです。
本州出身の私としては、北海道の秋の短さには毎年寂しさを感じ、日が暮れるのが早くなるにつれて少しずつ気分が暗くなっていってしまいます。

さて、今回は気分が暗くなる病気である椎間板ヘルニアです。この病気はダックスを飼っている人であれば一度は聞いたことがあるほどダックスに多い病気で、かくゆう私もダックスを飼っているのでこの病気を診ると自分の犬もいつかは、、、と思ってしまいます。というわけで個人的に気分が暗くなる病気です。

椎間板ヘルニアは、背骨と背骨の間にある椎間板といわれるクッションが飛び出てしまい、それが神経を圧迫することで痛みや麻痺を生じてしまう病気です。
原因は、加齢による椎間板の変性ですが、ダックスやコーギー、コッカーといった軟骨異栄養犬種といわれる犬種は、若いうちから椎間板が軟骨化して硬くなりやすく、それゆえにこの病気になりやすいのです。

症状としては、腰の痛み、後ろ足の麻痺です。
腰の痛みは、ジャンプをしなくなる、うずくまって動かなくなるといったことから推測できます。
後ろ足が麻痺すると、歩いていてもふらふらしていて、ひどくなると完全に動かなくなりアザラシのように前手だけで歩行するようになります。

痛みのみのときはグレード1、軽度の運動障害があるときはグレード2、麻痺があるがまだ歩行できるときはグレード3、麻痺が重度で歩けないときはグレード4、後ろ足の痛覚が無くたるほどの麻痺のときはグレード5というふうに分類します。

治療はグレードによって変わってきます。
グレード1,2の場合は内科的な治療になります。神経の炎症をとるためにステロイドを使用します。大概は一週間ほどで元気に戻ります。しかし、この治療は原因を取り除いたわけではなく、散らしただけなので元気になっても安静が必要です。
グレード3以降の場合は手術が必要になります。手術は、背骨を削って飛び出した軟骨を取り出します。うまくいけばかなりの症例で日常的な運動機能は回復します。ただ、手術をすればそれですぐ治るわけではなく、術後のリハビリも手術と同じくらい重要となります。
あと、体重過多も原因のひとつとなりますので、ダイエットも重要となります。

椎間板ヘルニアは比較的よく診る病気です。症状が軽い場合でも、数日のうちに一気に悪化してしまうことがあります。したがって少しでも腰の痛みを疑ったら、急いで病院にかかったほうがよいでしょう。
ちなみに、うちのダックスも実はすでに椎間板ヘルニアになったことがあります。幸い、軽度でなおりましたが。

第17回 慢性膵炎 2011.09.14
みなさん、こんにちは。季節はすっかり秋になってきました。秋といえば食欲だったり、芸術だったり、運動だったりしますが、なにか新しいことをするのにはよい季節ということでしょうか。でも大体は食欲くらいで終わってしまいますよね。

さて、今回は慢性膵炎です。膵炎は人でも脂分の多い食事の取りすぎでなるといわれていますが、動物でもドーナツなどを大量に盗み食いするとなります。
このような膵炎を急性膵炎といいますが、慢性膵炎はこのような食事が原因のものではなく、あまりはっきりしたきっかけも無く少しずつ膵臓の炎症が広がっていきます。

慢性膵炎は、老齢の猫でよく認められます。症状は吐き気とそれにともなう食欲の減退、体重の減少です。年のせいで吐いていると思っていたらこの病気であったということも良くあります。
初期の頃は、それほどひどくない症状(たまに吐いているが食欲は普通)ですが、進行してくると食欲がなくなり、どんどんやせて、吐き気もほぼ毎日になってしまいます。

診断は、超音波検査や膵特異的リパーゼという血液中の酵素活性を調べるとわかります。以前はこの病気があまり認識されてなかった上に、検査もあまり精度のよいものがなかったのでなかなか診断がつかなかったのですが、近年は以前よりずっと診断がしやすくなりました。

しかし、慢性膵炎で問題なのが治療です。診断がつくようになったのはよいのですが、あまり効果的な治療法がありません。吐き気止めで症状を抑えるくらいしか有効なものはありません。
あとは、点滴などで体調を整え、しっかりと栄養のある食事を与えるといったところでしょうか。的確な治療法がないのがこの病気の悩ましいところです。

猫で高齢で吐き気がある場合、今回の慢性膵炎や腎不全、甲状腺機能亢進症といった病気の可能性があります。基本的に歳をとったからといって何もないのに吐き気が出ることは少ないと思ってもらってもいいと思います。したがって、少し吐くのは年のせいかななどと様子を見ずに早めに病院で見てもらうといいでしょう。

第16回 てんかん様発作 2011.09.07
みなさん、こんにちは。先日病院の近くの神社でお祭りがあったようでたくさん出店が出ていたようですが、ちょうど台風が近づいていたためにあいにくの天気でいつもより人出は少なかったようです。
私は祭りと聞くとなんとなく胸躍る気分になるので、毎回行こう行こうとは思うのですが、大体いつも思うくらいで終わってしまいます。そして、今回も天気が悪かったのを理由にして結局行きませんでした。

さて、今回はてんかん様発作です。いわゆる発作ですが、一般に想像するような全身性に痙攣するような状態から、ただ震えているだけのものまで程度はさまざまです。
発作は脳の異常な興奮で起こるのですが、異常な興奮が起こる原因はさまざまです。大きく分けると、脳そのものが異常なときと、脳以外の部分が異常なときに分けられます。

脳そのものが異常なときというのは、生まれつきの脳の奇形、脳腫瘍、脳出血、脳梗塞、脳炎などが上げられます。ただ、頭の中はレントゲンや超音波ではほとんど調べることができないため、CTやMRIといった検査が必要になります。
人の場合は比較的容易にできるのですが、動物は麻酔をしないとこれらの検査ができない上、一般の動物病院にはほとんどこれらの機器が無いため、なかなか脳の異常の原因を突き止められないことが多いです。
ちなみに、てんかんというのはこのような検査をしても原因がわからない発作を起こす脳疾患のことを言います。

脳以外の異常というのは、心臓、肝臓、そして腎臓といった臓器の異常で、間接的に脳にダメージを与えてしまった結果として発作が起きるというものです。この場合は、血液検査や超音波検査などでだいたいは調べることができるので、原因を突き止められることが多いです。

したがって、検査としてはまずは血液検査などで脳以外の異常の有無を調べます。ここまでは一般の動物病院で実施できる項目で、これらの検査で異常が無い場合は、脳の異常を疑います。
つまり、これ以上の精査を実施するには大学病院等の大きな病院でCT,MRIを実施する必要があります。ただ、これらの検査は先ほども書いたように麻酔が必要で、検査費用も安くはありません。これらをするかどうかは、動物の状態と飼主の意向によります。
実際、現場ではCT,MRIまで検査するケースのほうが少ないように感じていますが、今後の検査技術の向上で動物に負担の無い方法ができればもっと原因を突き止められるようになると思います。

治療は、それぞれの原因によります。基本的には原因を取り除けば発作はなくなるはずです。しかし、治らない病気が原因の場合や、原因が追求できない場合は発作を止める治療を実施します。
これは病気そのものを治しているのではなく、発作をとめているだけなので根本的な解決ではありません。発作を止める治療は基本的には内服薬によります。フェノバルビタール、臭化カリウム、ゾニサミド、ガバペンチンといった薬を数種類組み合わせて継続的に投薬します。薬がうまく効けば発作はまったく起きなくなります。

発作ははじめてみたときにはこのまま死んでしまうのではないかと思うくらいで、びっくりします。パニックになって病院に駆け込んでくる飼い主の方もいらっしゃるくらいです。
もちろん、原因によってはすぐに生命の危機にかかわることもありますが、多くの場合は検査を実施するくらいの猶予があります。したがった、もしおうちの動物が発作を起こしても、あわてず少しおちつくまで様子を見て、落ち着いてから病院に連絡するか、連れていったらよいでしょう。

第15回 臍ヘルニア 2011.08.31
みなさん、こんにちは。今日で八月も終わりです。北海道ではすでに夏休みは終わっているようですが、本州の学生さんたちはいまごろ宿題におわれているころでしょうか。
最後まであきらめないでがんばってください。でも、どうしようもないときはどうしようもないものです。

さて、今回は臍ヘルニアです。いわゆるデベソですが、人のデベソとは違います。
ヘルニアというのは「体の臓器が、あるべき部位から逸脱した状態」と定義されています。つまり、臍ヘルニアというのは臍の部分から体の中の脂肪や腸が飛び出してしまっている状態です。

そもそも、おなかの部分は外側から皮膚、皮下組織、腹壁、腹膜と数層の仕切りで出来ています。そのうちの腹壁という部分に穴が開いていると腹腔内のものが飛び出して臍ヘルニアとなってしまいます。
この穴は生まれつきあいている場合もあります。シーズーなどは臍ヘルニアが多い犬種です。その他に、交通事故などで強い衝撃を受けたときや、手術でおなかを切った後の傷が開いてしまったときにもヘルニアになってしまいます。

では、臍ヘルニアがあるとどうなるのでしょうか。通常は脂肪が出ていることが多いのですが、まあこれくらいであれば問題にならないことがほとんどです。
しかし、何かの拍子に腸やその他の重要臓器が飛び出してしまうと一気に大問題となります。その他にも、突然穴が小さくなってしまって飛び出している脂肪などを締め付けてしまうと、うっ血して壊死してしまうのでこれも問題です。

治療としては、手術で飛び出しているものをおなかに戻して、穴を閉じてしまいます。
小さいものであれば様子を見ることもありますが、大きいものであればなにか起こる前に早めに手術してしまったほうがいいかもしれません。

シーズーなどで生まれつきある臍ヘルニアは、ぷにぷにしていておもしろいので、ついついいじってしまいますが、あまり触ると困ったことがおきることもありますのでほどほどにしておいたほうがいいでしょう。
避妊手術などのときに同時に閉じることも出来ますので、おうちの子で臍ヘルニアがあるようでしたら一度病院で相談してみてはいかがでしょうか。

第14回 肥満細胞腫 2011.08.24
みなさん、こんにちは。いままでのこのコーナーの出だしを改めてみてみるとほとんど天気のことしか書いてない事に気づいてしまいました。なかなか気の利いた出だしを思いつかないので、つい天気のことを書いてしまっているようです。学生時代の作文でも感じたのですが、自然な文章の出だしを書くのは難しいですね。

さて、今回は肥満細胞腫です。あまりなじみの無い病気かとおもいますが、皮膚にできる腫瘍のなかでは出会う確立の高い腫瘍です(犬の皮膚腫瘍の20〜25%)。皮膚以外にも、脾臓にできることもあります。

肥満細胞とは、体を守る免疫で働く細胞の一種で、アレルギーなどとも関連があります。この細胞が腫瘍化したのが肥満細胞腫です。したがって、別に太っているからなりやすいとかそういうわけではありません。

犬、猫共に発生し、大体8歳くらいから発生が多くなります。ボストンテリアやシャム猫で多いとの報告があります。

皮膚にできた腫瘍はさまざまな外見をしており、大きさは初期の段階であれば数ミリ程度ですが、腫瘍が成長すると10cm以上になることもあります。大体はひとつだけできていることが多いですが、まれに複数個発生していることもあります。発生部位は多い順に胴体、会陰部、四肢、頭となっています。

腫瘍を針でさして、細胞を顕微鏡でみることで診断できます。肥満細胞腫であることがわかったら、転移が無いかどうかレントゲンや超音波検査で確認します。

腫瘍自体は、悪性のものに分類されるのでたとえ小さいものでも手術で摘出する必要があります。摘出したものを詳しく検査(病理組織検査)することで、どの程度悪いものかが診断できます。
あまり悪くなく、完全に摘出できた場合はそれで完治となりますが、悪性度が高かったり腫瘍が残ってしまった場合は、追加の手術や抗がん剤の治療が必要になります。

腫瘍ができるのは生まれ持っての体質であることが多いので、これといった予防法はありません。上にも書いたように、見た目では腫瘍かどうかの判定が難しいこともあるので、皮膚にできものを発見したときは、一度病院で見てもらったほうがよいでしょう。

第13回 角膜潰瘍 2011.08.17
みなさん、こんにちは。お盆が終わって急に涼しくなり、夏の終わりを感じる今日この頃ですが、薄着で風邪などひいていませんでしょうか。あれほど暑い厚いと文句を言っていても、終わってみると暑かった日々が懐かしく、少し寂しくなるのは毎年のことながら不思議なものです。

さて、今回は眼の病気です。角膜潰瘍とは眼の表面の角膜が傷ついて削れてしまった状態のことです。
眼は非常にデリケートな器官なので、皮膚が怪我をしたのとは事の重大さがまったく違ってきます。適切な処置をしないと重大な後遺症が残ってしまう可能性があるます。

では、角膜の傷はどのようなときにできるのでしょうか。
耳や顔などを掻くときに自分で引っかいて傷ついてしまうことがおおいですが、けんかやごみなどで傷ついてしまうこともあります。それ以外にも涙の量が少ないドライアイやウイルス感染症などがあることでおこりやすくなるといわれています。さかさまつげがあるとそれが原因で何度も角膜潰瘍を繰り返すこともあります。
なりやすいのは鼻の短い犬種で、シーズーやパグ、フレンチブルドックなどが多いですが、もちろんそれ以外の犬種、猫でも見られます。

症状は、突然眼をしょぼしょぼさせる、涙や目やにがずっと出ている、目が充血しているというのがわかりやすいところでしょうか。しょぼしょぼさせているのは眼が痛いためで、我々も小さなごみが入っただけでとても痛いことからわかるように、角膜は非常に神経が発達していて、少々の傷でも見た目以上に痛みがあります。

診断は、特殊な染色液で眼の傷を確認します。また、検眼鏡で傷の深さや広さ、角膜以外の眼の異常の有無を確認し、治療方針を決定していきます。

治療は、程度が軽いものは抗生物質と角膜保護の点眼をするだけで回復します。しかし、傷が深い場合や、どんどん傷が大きくなっていく場合は、手術(患部を保護するためにまぶたを糸で縫ってしまい眼をむりやり閉じた状態にする処置)が必要になることがあります。
また、これ以上の損傷を防ぐためにエリザベルカラーの装着が必須です。

眼は、非常に精巧なつくりで、透明性が失われるとその機能は一気に低下する上、眼の病気は、他の病気に比べて進行が早い印象があります。少し治療が遅れただけでも、治療の成否に重大な影響を与えることがあります。
「ちょっと様子見てみよう」が動物たちの視覚に一生の影響を与える可能性がありますので、目がおかしいなと思ったら早めに病院にかかりましょう。

第12回 多飲多尿 2011.08.10
みなさん、こんにちは。まだまだ暑い日が続いていますが、お盆も過ぎれば北海道は涼しくなると思いますし、海に入れるのもあと少しですね。まぁ、ここ数年は海に入った記憶も無いのですが。

さて、今回はいつもと少し趣向を変えて、病気ではなく症状をとりあげてみたいと思います。今回とりあげる多飲多尿というのは、水をたくさん飲んで、たくさん尿が出ることです。

どれくらいで多飲多尿というかですが、ふつう尿量はなかなか測定できないので、飲水量で判定します。基準としては犬の場合一日あたり体重1kgあたり90ml以上、猫の場合45ml以上水を飲むようであれば多飲多尿と判定します。
似たような症状で頻尿がありますが、頻尿の場合は一回の尿が少ししか出ないのに対して、多飲多尿の場合は一回ごとにたくさんの尿をするのでよく観察していれば判断できることが多いようです。

では、どのような病気で多飲多尿がでるのでしょうか?
ざっとあげると、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、腎不全、子宮蓄膿症、尿崩症、腎盂腎炎、高カルシウム血症、甲状腺機能亢進症などが主なものといえます。病気ではないですが利尿剤を飲んでいるときでも多尿がおこります。
どれも結構重い病気ですが、多飲多尿は初期の頃から認められることが多いので、早期発見には重要な症状といえます。

検査としては、多飲多尿以外の症状から大体のあたりをつけるのですが、病気の確定するために血液検査や超音波検査も必要になります。あとはそれぞれの病気ごとに変わってきます。

治療は原因の病気を治すことが第一です。多飲多尿自体は別に悪いことではなく、病気の結果として体が水分を維持するための反応なので、多飲多尿自体に対する治療は必要ありません。

一般の方の感覚だと、水をたくさん飲むから尿がたくさん出ると思いがちですが、病的な多飲多尿の場合は、尿がたくさん出てしまった結果、のどが渇いてたくさん水を飲むようになるということが多いです。
したがって、飲水を制限してしまうと、水はでていってしまうばかりでどんどんなくなってしまうので脱水になってしまいます。ゆえに安易な水の制限は危険です。

多飲多尿はわかりやすい症状の割りに、大きな病気の発見には重要な症状です。夏場は比較的水を飲む量が増えることが多いですが、上記の規定量を超えることは少ないです。したがって、なんとなく水を飲む量が多いと感じたら、一日の飲み水の量を測定してみることをお勧めします。
その結果が怪しいようでしたら、様子を見ないで早く病院に行きましょう。その際もし尿が取れたら一緒に持ってきていただけると助かります。

第11回 動脈管開存症 2011.08.03
みなさんこんにちは。いつの間にか8月になりいよいよ夏も本番ですね。北海道では油断するとすぐに冬になってしまうので、今のうちになにか夏らしいことをしなければと思いビアガーデンに行ってきました。いつも病院にこもっているのでたまには外でのんびりするのも気持ちいいものですね。

さて、今回はリクエストをいただきましたので動脈管開存症という病気を取り上げたいと思います。
この病気は先天性(生まれつきもっている)の心臓病で、PDA(Patent Ductus Botalloの略)ともいいます。

動脈管とは、本来は胎児のときのみ存在していて生まれたら閉じるはずの血管で、PDAとは動脈管がうまく閉じないことで心不全が生じ、最終的には酸素がうまく全身に送れなくなってしまう病気です。

遺伝が原因と考えられていますが、出産前後でおこる動脈管の閉鎖にかかわる機構がうまく機能しないために発症します(この閉鎖の機構はなかなかダイナミックで感動的なので興味がある方は調べてみると面白いですよ)。

そもそも動脈管というのは肺動脈と大動脈をつなぐ血管で、肺を使用しない胎児期には肺へ無駄に血液を送るのを減らすために機能しますが、出生後もこの血管が閉じないで残ることで本来は大動脈から全身にいく血液が肺にまた戻ってしまい、そのために心臓に負担がかかっていきます。
この状態がつづくと、心臓がどんどん大きくなっていき、血液の循環が悪くなります。そして、最終的には大動脈から肺動脈への流れが逆転してしまい(アイゼンメンガー症候群)、酸素の輸送がまったくできなくなってしまい、命を落としてしまいます。

症状は、子犬なのにあまり活発でない、少し動くとすぐ息が切れて、舌が青くなってしまう、咳をするなどです。あと、成長が遅いこともあげられます。
多くは、病院でワクチンなどのときに聴診して気がつきます。確定診断するには超音波検査で異常な血液の流れを見ることが必要です。

治療ですが、前述したように何もしないでおくと徐々に悪化して1歳前後で命を落としてし舞うことが多いようです。したがって、異常な血管を閉鎖する手術が必要になります。
これは、開胸で直接動脈管を糸でしばるというものです。これだけ聞くと簡単そうですが、手術時は患者はまだ小さく、心臓の近くを操作するので手術のリスクはかなり高く、術中に死亡してしまうこともあります。
他にもカテーテルで胸を開けないで血管を閉鎖するという方法もあり、この方法は開胸手術よりは犬の負担は少ないですがある程度大きい犬種でないと選択できません。
治療そのものはリスキーですが、治療がうまくいくとこの病気はほぼ完治してしまい、今後心配は必要なくなります。
ほとんどが治療が難しい先天性心疾患のなかでは、治すことができる病気といえます。
ただ、アイゼンメンガー化すると手術不適用となってしまうので、早期の診断、治療は重要です。

PDAは子犬の先天性心疾患の中では比較的発生率が高く、初回のワクチンなどの予防時の聴診で発見することが多いです。そういう意味でも、おうちに新しい家族を迎えたときには一度病院で健診を受けておいたほうがよいのではないでしょうか。

第10回 膀胱炎 2011.07.27
みなさん、こんにちは。ついに10回目です。
ギリギリのときもありましたが(今回もギリギリですが)、週一回の更新を目標にこれからもがんばっていきたいとおもいます。

さて、記念すべき10回目ですが、膀胱炎です。
この病気は雌に多いのですが、突然真っ赤なおしっこがでてびっくりする病気です。

膀胱炎は、膀胱内に細菌や結石といった異物があることで、膀胱粘膜に炎症が起こり出血や頻尿といった症状が起こります。上記の症状があると、動物は落ち着かなくなり、痛みで元気がなくなる子もいます。頻尿は見ていてもとてもつらそうです。

では、それぞれの原因について見ていきましょう。
細菌感染は多くは外から菌が侵入することでおこります。生体には通常は外部からの菌の侵入に対する防御壁があるため菌は排除されるのですが、免疫力の低下などがあると感染が起こります。
この辺の理由はまだはっきりとは解明されていないようです。したがって、感染に対する予防方法というのはまだ確立されていません。

結石は生まれもって、できやすい体質というのがあります。こればかりはどうしようもありません。ただ、食事療法で石をできにくくすることができますので、結石については予防できます。
しかし、石の種類によってはなかなか予防が難しいものもあります。

細菌も石も何も無いのに症状があることがあります。このようなものは特発性の膀胱炎といいます(特発性とは原因不明のことをいいます)。猫では結構特発性のことが多いです。

まれではありますが、膀胱や前立腺の腫瘍が原因で起こることもあります。

さて、症状があれば病院にいく必要がありますが、症状だけでは原因は特定できません。
したがって検査が必要になります。まずは、尿検査です。尿検査で細菌感染や結石があるかどうかわかります。
もうひとつ超音波検査です。これで膀胱内を見ることができます。大きな石や腫瘍の有無が調べられます。

治療は原因によりますが、細菌感染の場合は抗生物質の投与、石の場合は食事療法が必要です。特発性の場合はなにもしなくてもおさまります(抗生物質を投与することもあります)。腫瘍の場合は手術するかどうかですが、ややこしくなるので今回は省略します。
適切な治療をするとだいたい3日くらいで症状が落ち着いてきますが、そこでやめてしまうと再発してしまうので獣医さんの指示通り治療を継続してください。

幸い私は膀胱炎になったことはないのですが、経験者の話を聞くと頻尿がかなりつらいとのことです。命にかかわることはあまりない病気ですが、適切な治療で早く楽になるようにしてあげましょう。

第9回 喘息 2011.07.20
みなさんこんにちは。本州では大型の台風が大暴れのようですが、ココ札幌はうそのようにいい天気です。
この気温で窓閉めてエアコンなしなんて想像しただけでげんなりしますね。

さて、そんな話とは関係ないですが、今回は喘息です。
人の場合は喘息というのは肺機能検査(肺活量など)やIgE抗体の存在の確認などをしないと診断できないので、ここで言う喘息というのは厳密には人の喘息とは同じではないのですが、まあそれは獣医側の問題であって、症状としては似ているので喘息と呼んでいます。
ちなみに喘息というのは猫の場合だけで、犬の場合はアレルギー性気管支炎といいます。

原因ははっきりとわかっていませんが、チリやホコリなどによるアレルギー刺激が症状を悪化させる要因と考えられています。そして、慢性的な刺激で肺が繊維化し硬くなってしまいより咳が悪化してしまいます。
また、タバコを吸う家庭で発生が高いとの報告があります。
最初は「あれ、咳してるなぁ」くらいですが、ひどくなると夜も寝れないくらいになってしまいます。
年齢的には2から8歳くらいでの発症が多いようです。

診断はレントゲン検査、血液検査などを実施します。レントゲンで肺、気管支の病変がみられますが、あまりはっきりとした異常が見られないことも結構あります。
ただ、腫瘍や肺炎といったほかの病気がないかどうかを確認する意味でも検査は重要です。

治療ですが、アレルギーが関与しているので炎症を抑えるためにステロイドを使用します。他にも補助的に気管支拡張剤や二次感染予防に抗生物質等の投与も行うことがあります。また、発作が激しいときは人が使うような吸入剤を使用することもあります。
カーペットやクッションといったホコリの元をなくしたり、空気清浄機を導入することで症状が軽減することもあります。しかし完全に治ることはまれで、長期間の薬の服用が必要となることが多いです。

咳の原因は喘息以外にも、以前紹介した僧帽弁閉鎖不全症や腫瘍などがあります。どの病気も油断すると命取りになることがあります。ですから、咳を見つけたら早めに診察を受けましょう。
喘息に関してはしっかり治療すると日常生活は問題なくすごせるようになれるケースがほとんどです。

第8回 子宮蓄膿症 2011.07.13
みなさんこんにちは。今回で8回目になりますが、そもそもこれを見ている人がいるものだろうかと思っていたのですが、先日患者さんにみてますよといわれたので、あぁ誰かみているならがんばらなければなと思いました。
なので、今週もがんばって更新です。

さて、今回は子宮蓄膿症です。この病気は知っている方も結構いるのではないかとおもいますが、避妊手術をしていない中から高齢の動物がなることが多い病気です。
病気としては読んで字のごとく子宮に膿がたまるというものです。これだけ読むとたいしたことないように思えるかもしれませんが、たまった膿を放っておくと最終的には細菌が血液にのって全身にめぐり敗血症になり死んでしまいます。

高齢の雌犬で元気食欲が無いといって来院した場合、獣医さんは避妊手術をしているかどうかを気にします。そこで避妊手術をしていないようであればこの病気かも、と疑うくらいよく出会う病気のような気がします。

症状ですが、飼い主のみなさんがよく気がつくのは水をたくさん飲むようになる、そして外陰部から膿が出るあたりでしょうか。あとは元気消失、食欲不振、発熱といったものです。
また、この病気は発情が来てから1から2ヶ月後に発症するので、発情後に上記症状が出たらすぐに病院に行ったほうがよいと思います。症状と超音波検査で子宮の拡大を確認できれば診断できます。

治療ですが基本は手術です。膿のたまった子宮を摘出しますが、同時に卵巣も摘出します。手術自体は避妊手術と同じことをするのですが、体調が悪い状態で行うので危険性が高くなります。
手術が無事に終わっても、術後に体調が悪くなることも少なくありません。これは、高齢での手術ということもありますし、細菌の出す毒素で腎臓などの臓器がやられてしまうためといわれています。
また、心臓や腎臓がもともと悪くて手術できない場合は特殊な薬で子宮にたまった膿を排泄させるという方法をとることもあります。しかし、この方法は確実ではなく、一度治っても再発してしまうことがあるため、よほどのことがない限り手術を検討します。手術が成功すれば二度と再発することはありません。

予防は病気になる前に避妊手術をしてしまうことです。避妊手術に関してはいろいろな意見がありますし、私はどちらの言い分もわかるのでなんともいいがたいところです。
しかし、この病気に関しては避妊手術で100%予防できます。それだけははっきりと言えます。

お知らせを更新しましたのでそちらもチェックしてみてください。

第7回 熱中症 2011.07.06
みなさんこんにちは。札幌は暑かったり涼しかったりで不安定な日が続いていますが、カゼなどひいていませんでしょうか?私は体は丈夫なほうですが、暑いのは嫌いなので早く秋になってほしいといつも思っています。

さて、今回は夏といえばの熱中症です。
熱中症は人でもなるので皆さんご存知とは思いますが、気温が高くなる今の時期くらいからニュースで耳にすることが多くなってきます。
札幌は夏といっても本州よりは気温は低めですが、それでも閉め切った部屋や車の中はかなりの高温になってしまうので、十分におこりうるものといえます。

この病気は犬で見られることが多いですが、そのなかでも特に短頭種(パグ、ブルドックなど)のように呼吸が苦手な犬種は熱がこもりやすいく、熱中症になりやすいです。もちろん、普通の犬種でも暑い空間に長時間放置するとなってしまいます。あと、外気温が高いときの過度の運動も要注意です。

症状は体温の上昇(40度以上)、脱水、呼吸が速くなる、意識レベルの低下、痙攣等が見られますが、発見時はかなり重篤な状況になってしまっていることが多いです。 このまま放置すると、高体温(42度以上)による細胞のダメージからさまざまな臓器が働かなくなってしまい、多臓器不全やDICをおこし、死亡してしまいます。

治療ですが、この病気はとにかく初期治療が重要です。とにかくまずは冷やします。悔やんでる暇があったら冷やしてください。水で毛をぬらし、タオルをまいたアイスノンなどで脇や股の部分を冷やすと効率的に冷やすことができます。ただ、小型犬の場合は冷やしすぎると低体温になってしまうので注意してください。
そして冷やしながら、できるだけすぐに病院に向かってください。点滴で急速に電解質、水分を補充し、脳浮腫の予防にステロイドの投与、腎不全の対処、予防的抗生物質の投与などの治療が必要で、これらも回復できるかどうかの鍵となってきます。数日くらい集中治療を継続し、各種検査で異常が出なければ大丈夫です。

熱中症は病気というよりは事故といえるかもしれません。気をつければ防げるものです。しかし、どうしてもうっかりしてしまうことは誰にでもありえます。そんなときのためにも緊急の対応というのは確認しておきましょう。

第6回 胆嚢粘液嚢腫 2011.06.29
みなさんこんにちは。札幌もようやく夏らしい日が多くなってきました。私は暑いのが苦手なので病院が休みの日の日中は犬のようにヘバッテしまっています。まあ、あまり暑くなくてもしゃきっとしているほうではないのですが。

さて今回は肝臓の病気です。胆嚢粘液嚢腫は中〜高齢の犬に見られる肝臓にある胆嚢という部分の病気です。
シェパード、シュナウザー、コッカースパニエルで多い病気です。

そもそも胆嚢は肝臓で作られた胆汁という消化酵素を貯えておく袋状の器官で、食事をするとココに貯えていた胆汁を十二指腸に分泌することで、食物を消化します。

では、胆嚢粘液嚢腫はどのような病気かというと、胆嚢のなかの胆汁がゼリー状に変化し、胆汁の分泌がうまくいかなくなるものです。それによって胆汁の流れが止まってしまい胆嚢の壊死や肝臓の炎症が引き起こされます。最終的には重度の肝障害、腹膜炎から多臓器不全を引きおこし命を落とします。

原因は胆嚢の細菌感染や胆石、高コレステロール血症などが上げられます。

症状は、突然の嘔吐や食欲の低下、発熱があります。また、重度になると黄疸(白眼や口の粘膜が黄色く染まる、尿の色が濃い黄色になる)がみられます。
血液検査では肝臓の数値(ALT,ALP,GGT,T-BIL)の上昇、白血球数や急性総蛋白(CRP)の上昇が認められます。
超音波検査では流動性をうしなった胆汁がたまった胆嚢が特徴的な画像として見られます(キウイフルーツを輪切りにしたような絵です)。

治療は軽度の場合は抗生物質や利肝剤といった薬で抑えることができますが、重度の場合は手術で胆嚢を摘出しなければならなくなってしまいます。手術の段階ではかなり具合が悪くなってしまっていることが多いので、手術のリスクはかなり高くなります。

多くはまったく症状がない状態で徐々に進行していって、ある日突然症状が現れます。この無症状の状況で発見するには、血液検査で肝臓の数値(ALP,ALT)の上昇と超音波検査で胆嚢の状況の確認が必要です。
5歳くらいになったら一度血液検査と胆嚢のチェックをしてみてみましょう。もしかするとこの病気がひそかに進行しているのを見つけられるかもしれません。

どの病気でもいえることですが、病気になってから治療するよりも病気になる前に予防するほうが動物たちにとってはずいぶん負担が少ないのです。

第5回 歯根尖膿瘍 2011.6.22
皆さんこんにちは。今回は、歯の病気です。回を追うたびに挿絵が適当になっていますが、そこは気にせずに今回も張り切っていきましょう。

さて、歯は見えるところだけに、皆さん気にされていることが多いように思います。人のように毎日歯磨きができるといいのですが、動物の場合はなかなか難しいことが多く、徐々に歯垢が蓄積していきます。歯垢が蓄積すると、歯肉炎といった歯周病がおこります。

今回の歯根尖膿瘍はこの歯周病が悪化し、歯の根っこに感染により膿がたまってしまうという病気です(歯が折れてそこから感染が起きることもあります)。
皆さんの中にも虫歯を放置しすぎてなったことがある方もいるかもしれませんが、かなり痛いと聞いたことがあります。

膿がたまると、目の下の部分の皮膚が腫れて、固いものをかんだときに痛がるようになります。口の中に出血が見られることもありますが、歯の根にとどまっていてみられないことのほうが多いようです。
先ほども書いたように痛みがでるので、食事をとらなくなってしまうようになる子もいます。

治療は、根本的に治すには原因となった歯を抜いてしまうしかありません(このとき全身麻酔が必要です)。歯を抜くと抜いた部分からドロッと膿が出てきます。その部位を洗浄して、抗生物質を注入します。
ただ、高齢や病気のため麻酔をしての抜歯が難しい場合は、抗生物質の内服薬で散らすこともあります。この場合一度は良くなることが多いですが、しばらくしてから、また再発してしまうこともあります。

なってしまうと麻酔をしての抜歯という厄介な病気ですので、やはり予防が大切ではないかと思います。
いまは、歯磨きのためのさまざまな商品も見かけますし、歯石を減らすフードなんていうのもあるようです。

健康は口からという言葉もあったような気がしますし(多分?)、もしおうちの動物の歯が汚れているなと思ったら獣医さんに相談してみてはいかがでしょうか?

第4回 パルボウイルス感染症 2011.6.15
みなさんこんにちは。今回で4回目になりますが、いまのところ当初の予定通り週1回の更新を維持できています。この調子で続けていきたいと思います。

さて、今回の病気はパルボウイルス感染症です。あまりなじみのない病気に聞こえるかもしれませんが、実はみなさんのわんちゃんねこちゃんが年1回接種している混合ワクチンにはかならずこの病気の予防が含まれています。
つまり、なじみが少ないのはワクチン接種によってこの病気を予防しているからかもしれません。

この病気は名前からわかるように、ウイルスに感染することによって発症します。ワクチン接種が完了していない子犬、子猫(6週齢から6ヶ月齢)での発症が多いように思いますが、もちろん大きくなった犬猫でもワクチンを打ってなければ感染はおこります。

症状は、急性の嘔吐や下痢、血便です。食欲もなくなり、脱水でぐったりします。また、免疫系の異常も起こるためにリンパ球、好中球の低下がおこります。重症化すると敗血症、ショック、多臓器不全といった状態になり死に至ります。
さきほども書いた通り、体力の少ない幼い動物たちでの発症が多いので、油断するとあっという間に命を失ってしまう恐ろしい病気です。

感染は下痢便中に含まれるウイルス粒子を口から吸い込むことおこります。潜伏期間が7から14日くらいあるので、元気な新しい動物を家に迎えてからしばらくして急に発症することもあります。また、このウイルスは6ヶ月ほど環境中で生きていけるというタフなやつらです。

診断は、症状や年齢からこの病気を疑ったら、糞便中のウイルスをチェックするキットをもちいて行います。最近ではPCRといった遺伝子を検査する方法も利用することもあります。

治療は、集中治療と支持療法が柱となります。すなわち、吐き気や下痢の治療と脱水の改善のための点滴です。
また、インターフェロンという抗ウイルス作用のある薬も用います。
初期の急性期を乗り越えると回復し、生涯にわたってこの病気に打ち勝つ免疫を得ることができますが、この急性期で亡くなってしまうことも多々あります(適切な治療をしても30%の患者は亡くなってしまうといわれています)。

感染力が非常に強いウイルスなので、発症してしまうと隔離しなければならなかったり、飼育環境を徹底的に浄化しなければならなかったりと大変な病気ですが、ワクチンを適切に実施しておけば、ほとんど予防できる病気ともいえます。
つまりどうすべきかまでは書きませんが、そこは飼い主のみなさんの責任であると思います。一度でもこの病気の動物をみたらワクチンのありがたみがわかるというものです。

第3回 外耳炎 2011.6.8
みなさん、こんにちは。今回は耳の病気をとりあげたいと思います。

みなさんいろいろな理由で病院にいらっしゃいますが、そのなかでも耳をかゆがるという理由での来院は多いのではないでしょうか。特にダックスやレトリバー、そしてコッカースパニエルといった耳のたれている犬種で多いようです。
このような症状で、耳介から耳道の炎症があるものを外耳炎といいます。

外耳炎の症状として、単純に耳を後ろ足で掻く以外にも、頭を振ったり、耳の中が真っ赤になる、耳のにおいがきついといったものがあります。かきむしりすぎて耳や、その周りの皮膚から出血してしまうこともあります。

たかが耳の汚れと軽く考えてしまいがちですが、汚れの原因は細菌感染や真菌感染、ダニなどの寄生虫、そしてアレルギーなどさまざまで、症状が悪化して炎症が内部にすすむと鼓膜が溶けて中耳炎になってしまいます。また、炎症が長く続くと、耳の壁が厚くなり、耳道がふさがってしまうこともあります。

治療は耳の洗浄が基本となります。洗浄液で耳の中の汚れを洗い流し、その後、原因に合わせて抗生物質や抗真菌剤、ステロイド等の薬を滴下します。症状が重いときは外用薬のみでなく、内服薬も併用することもあります。しかし、汚れをしっかり取らないといくら薬を使用しても十分な効果は期待できません。したがって、洗浄が基本であり、最も重要な治療法といえます。

外耳炎は、ある程度治療をすると良くなるため、途中で治療をやめてしまうことが多いですが、多くの場合は自宅での耳掃除といった定期的なチェックが必要になります。
すぐに命にかかわる病気ではないのでついついほっとかれがちですが、自分の耳が一日中かゆかったらと想像してみると、実は痒みというのはかなりつらい症状であることがわかると思います。

おうちの動物が耳を気にしているようでしたら、ぜひ病院でチェックしてもらってみてください。


第2回 慢性腎不全 2011.6.1
前回は犬に多い病気である僧帽弁閉鎖不全症を取り上げましたが、今回は猫に多い病気を取り上げたいと思います。
まだ慣れなくて文章が少々硬いですが、今回もどうぞお付き合いください。

さて、そんな訳で、今回は獣医さんに「猫に多い病気は?」と聞いたときにかなり高率でかえってくるであろう病気である慢性腎不全を解説したいと思います。犬もかかる病気なのでわんちゃんの飼い主さんも要チェックです。

まず、「慢性腎不全とはどのような病気なのか?」ですが、読んで字のごとく長い期間続く腎臓の機能低下です。高齢動物での発症が多く(平均は猫で9歳、犬で7歳)、数ヶ月から数年かけて徐々に悪化し、さらに腎臓は一度機能を失うと回復はしませんので、腎臓移植をしない限り治らない病気といえます。

そもそも腎臓は尿を作る臓器ですが、尿というのは体の中の老廃物を排泄したり、水分やミネラルの調節をするためにつくられます。つまり、腎臓の機能がわるくなると、体の中の老廃物を尿に出すことができなくなり、水分やミネラルのバランスが崩れてしまいます。腎臓の機能がいよいよ完全に失われてしまうと、尿自体が作れなくなり、重度の尿毒症で命を落としてしまいます。

慢性腎不全になると、どのような症状がでてくるかというと、ます水をたくさん飲み、薄い色の尿を大量にするようになります。おそらく多飲多尿が最初に気付く症状であると思います。そして、どんどんやせてきたとなると要注意です。高齢の動物で多い病気なのでついつい「年のせいかな?」と考えがちですが、上記の症状があれば病院で検査を受けることをお勧めします。他にも、食欲不振や吐き気、脱水、貧血といった症状も見られます。

次に治療ですが、先ほども書いたようにわるくなった腎臓は取り戻せません。従って、残っている腎臓の機能を温存し、不足する腎機能を補助することで病気の進行を食い止めます。具体的には、食事管理(タンパクや塩分の制限)で腎臓の負担を減らし、薬で高血圧を抑えることで腎臓の細胞の保護をし、点滴で体内に蓄積している毒物を洗いだします。点滴は通院でもできる皮下点滴や入院で行う静脈点滴などがありますが、どのような治療を行うかは、動物の状態や性格をみて決めます。

慢性腎不全は高齢の猫であればさけては通れないといえるくらい、よく見かける病気です。しかし、早期発見で食事療法や治療を早めに開始できると質の高い生活を長く送ることができます。高齢の動物が家にいる場合は水を飲む量をチェックしてみてください。
いずれ腎臓移植が普通に行われるようになって、この病気で苦しむ動物が元気になれればいいなと思います。

第1回 僧帽弁閉鎖不全症 2011.5.25
僧帽弁閉鎖不全症は左心房と左心室という心臓の部屋の間にある血液の逆流を防ぐ弁(僧帽弁)がうまく閉じなくなってしまい、心臓から十分に血液が送り出すことができなくなってしまう病気です。(心臓についてはいずれ機会があれば解説したいと思います。)

多くは加齢によって弁が変性することで発症し(10?12歳で発見されることが多い)、小型犬がかかりやすい病気です。例外的にキャバリアは比較的若齢(6?8歳)でも発症することが知られています。

症状は、初期の頃は運動後に咳が出る程度ですが、悪化してくると普段の生活でも咳が多くなり、興奮時に呼吸困難や失神が起きるようになります。さらに病気が進行すると血液の流れが滞ることで肺に血液がうっ滞して肺水腫とよばれる状態になります。これは肺に水がたまって呼吸ができなくなるという大変危険な状況で、肺水腫がこの病気の死因となることが多いです。

治療は、外科的なものと内科的なものに分かれます。外科的な治療は今のところ、大学や一部の病院だけでしか実施できず一般的には行われていません。したがって、多くの場合は内科療法を実施することになります。

内科的な治療は、薬で心臓の運動を補助し、心臓が疲弊するのを防ぎます。使用する薬はさまざまな種類の薬を病気の進行具合に合わせて調合します。主なものをあげると、ACE阻害剤、ジギタリス製剤、硝酸剤、利尿剤、ピモベンダンなどがあります。どの薬をどの量で使用するかは、症状とさまざまなデータを比較しながら決定していきます。もちろん、運動制限や食事制限(塩分の制限)など日常生活の改善も重要です。

僧帽弁閉鎖不全症は外科的な処置をしないかぎり徐々に悪化していき死に至る病気です。しかし、早期に発見して、早めに心臓を保護していくことでながく元気に生きていくことができます。定期的に聴診を行い心臓の雑音を発見するのが最も簡便な早期発見法ではないかと思います。

この病気はまだまだこれから治療法が発展していく可能性があるので、いずれ安全に手術ができるようになり、多くのこの病気で苦しむ動物たちが元気になれるようにしたいものです。

あみたに動物病院あみたに動物病院

〒063-0001
札幌市西区山の手1条6丁目2-15
セピア山の手1F
TEL 011-215-7881